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正直に言えば、わたしは凪が欲しかった。
「でもねえ」
古い日本家屋の二重鍵を施錠しながら思う。
「もっと欲しいものがあったんだよね。」
安心できる家庭。
脅かす者がいない家庭。
帰ってきたくなる家庭。
笑いが絶えない家庭。
それは、普通は男女が結婚して築いていくものであるということはわかっている。
でも、一般的な形じゃなくても、全員が幸せならそれでいい。そんな家庭。
それを手に入れるということは、自分の残火をそっと胸の奥に匿うという意味に他ならないが、それでもいいと思ったのだ。
凪を想った日々を、なかったことにはしたくないし、否定もしたくない。
ただ自分の中にしまっておきたい。
行ってきます、と呟いて、もはや綺保子の形見となったLVのスーツケースをガラガラと引いて空港へ向かう。
秋山さんには雲丹の瓶詰めのようなお酒のアテ、凪には甘いものでもお土産に買っていけばいいだろう。
わたしには帰る場所がある。
帰りを待ってくれる、“家族”がいる。
その事実は何よりも自分の力となる。
飛行機の中で、チョコミントアイスを食べよう。
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