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と聞くと、凪が大学の図書館で借りていた本を、今日返さなければならないのに家に忘れたから届けて欲しいと頼まれていたという。
1日くらいいいのではないかとも思ったが、凪は講義に出ているのか連絡が取れないとのことで、わたしが届けることを申し出た。
秋山は恐縮していたが、
たまには街中へ出るべきだと思ったのもある。
凪の大学(というか大学院)は都会に位置しているので、申し訳程度に髪や顔を整えて、久方ぶりに電車に乗るなどした。
まだラッシュの時間には早く、車内に人影はまばらだ。
サラリーマン、OL、学生。
なんでもない自分。
何者かであった頃のことは、覚えているようで朧げだ。
目的の駅に降り立つ。
数人で連れ立って楽しそうに歩く若い女の子たち。打ち合わせにでも行くのか、スーツ姿の男女。手を繋いで駅前のカフェに入っていくカップル。
唐突に、2年も前に別れた男のことを思い出した。
嫌いで別れたわけではないけれど、
熱烈に愛していたわけでもなかった。
なのに急に襲いかかる記憶の鮮烈さ。
会社帰りに(わたしは寒いからちょっと嫌だったけど、断ると色々面倒くさいから)お花見したこと。
アウトレットで怒られて、先に帰られたこと。
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