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「それだけ?あ、はい。え?はい。」
泊めてもらった翌朝。
秋山はすでに出社していた。
朝は食事を摂りたがらない凪のために手作りのグリーンスムージーと、多分私に向けたものであろう
味噌汁と炊飯器にはご飯、卵焼きと焼き鮭、漬物の朝ごはんを残して。
その時、ガタガタっと玄関から物音がした。
「あれ?秋山さん、戻られましたかね?」
と凪に聞くと同時に、台所の引き戸が勢いよく開く。
「…あなた……どなた?」
歳の頃は40代後半から50歳くらいに見えるご婦人が立っていた。
品のある訪問着に、美しく整えられた髪。爪の先は桜貝色に染まっていて、全体的に手入れの行き届いた綺麗な人だった。
「ねえ凪ちゃん、この人まさか凪ちゃんの恋人?あなた女の子もイケるの?」
と、上品な外見とは裏腹に甲高い声でマシンガンのようにまくしたてる。
『人は見かけによらない』を具現化したような人物だ。
「違うよ綺保子さん。この人は、」
凪が私に目線を投げる。
黒猫みたいな薄茶色の瞳。
「この人は、慎吾さんの好きな人。」
はあ?
と漏れそうになる心の声に、綺保子の弾む声がかぶさる。
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