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スマホの振動音で目が覚めた。 毎朝似たような時間に鳴るコールのおかげで、これと言って用事があるわけではないのに規則正しく起床できているのが皮肉である。 さあっと、風が頬を撫でる。 旧い木造二階建ての古民家は、風通しが良くて心地良い。 (凪曰く、夏涼しくて、冬寒いのだそうだ。) 襖を開けると、すでに身なりを整えた凪が新聞を読みながら秋山お手製のグリーンスムージーを飲んでいた。 フワフワのパーマヘア、オーバーサイズのキャメルのTシャツ、黒いスキニーパンツ。今時の、清潔で綺麗で覇気のない男の子。 「…おはようございます。」 「おはよー爽。今日も目が笑ってないねー。」 のっけから、皮肉混じりの朝の挨拶。 このノリにもようやく慣れてきた。 口の端を無理やりあげて、笑顔を作る。 じゅうじゅうカリカリに焼かれたベーコンと、艶のある半熟のオレンジ色の目玉焼き。近所で評判のブーランジェリーで駆け込みで手に入れたバケット。 出社前に秋山さんが作っていってくれる朝ごはんは天下一品なのに、凪は一切食べない。 「じゃ、俺は大学行くわ。」
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