縷々屋

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 縷々は昨日と同じように本を読んでいた。半眼だったのは眠かったからではなく、デフォルトのようだ。  昨日と違うのは、カウンターの向こう側でなく、カウンターの上に座って本を読んでいる点だろう。行儀が悪い。客が来たらどうするんだ。静かな店内に、パラリとページを捲る音が響く。  妄想の後だったので、彼女に視線を向けられた瞬間、肩が強ばってしまう。縷々はクリーム色の文庫本に押し花の栞を挟み、机に手をついて立ちあがった。  平静を装いつつも、心臓バクバク、妄想ドクドク。制服の短いスカートに細い白糸が落ちていたので「取りましょうか?」と紳士の笑顔を浮かべそうになるが、セクハラと叫ばれて殴られたら嫌なので止めておく。その短いスカートがふわりと揺れ、覗く縷々の白い腿が妙に艶めかしい。嫌でも昨日のクソ爺とのやり取りを思い出させる。やらしいクソ爺め。本当、うらやまけしからん。 「君に最初の仕事を与えよう」 「あ、はい」 「これから私は仕事着に着替える。絶対に覗くな。それが君の最初の仕事だ」 「はい?」
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