縷々屋

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 俺が疑問を発する前に、縷々は本の山から新たな一冊をつまんで歩き出していた。読みながらの移動は、何度見ても心配で声を上げそうになるが、縷々は散乱する本を器用に避けながら奥の部屋へと消えていった。  というか、仕事着というものがあるのか。爺とのお仕事。一瞬、胸元を大胆に露出(ろしゅつ)した服装で出て来るんじゃないかと想像してしまう。もう本当、ムラムラに改名だな、俺。  動揺のあまり、近くに積み上げられていた本の一冊を落としてしまう。許してくれ。俺は妄想力マックスの男子高校生なんだ。僅かな刺激が、生い盛る巨木へと変化する妄想の種となり得る。動揺を抑えられなくなると、鼻血を吹き出したり、色々なところから、色々なものを吹き出したりする。知ってるだろ? それが男子高校生なのだ。  落ちた本は、恐らく地方の言葉でタイトルが書かれたホラーの本だった。着物姿の女郎が白い顔でこちらを見て笑っている。 「ふひ」  表紙のあまりの不気味さに変な声が出てしまった。俺は本を拾って机に置くと、鼻水を啜(すす)った。血の味に驚く。鼻血じゃん。本当に色々出してるじゃん。
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