縷々屋

6/202

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/202ページ
 突然の出来事だった為、戸惑ってしまったが、奥の本棚にティッシュ箱を見つけて安堵する。鼻血が垂れ落ちてしまわないよう、斜め上を向きつつ、本を踏まないよう慎重に歩く。そして、ティッシュの箱に手をかけようとした瞬間――。 「またせたな」  丁度着替えを終え、奥の部屋から出て来た縷々と目が合った。その距離、僅か十数センチ。まさかのまさか、このタイミングで着替えから戻って来ると思わなかったので、全身が硬直してしまう。勿論、固まるのは俺の身体だけであって、鼻血は固まらない。たらりと冷たいものが鼻筋を通過した瞬間「覗いていたのか! この変態野郎!」という声が響き、強烈な顔面パンチによって、俺の身体は宙を舞った。  積み上げられた大量の本を巻き込み、大量の鼻血をまき散らし、オリンピック選手も真っ青な十回転ひねりを披露した俺は、全身を強打しながら、埃臭い床と濃厚なディープキスを堪能した。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加