縷々屋

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「京都の歌に決まっているだろう」  何故に京都? ここ東京だよね? 「しねしねしね~」 「あ、それは何の歌か分かりました」 「答えてみたまえ」 「ムラムラ死ねの歌ですよね?」  縷々は斜め後ろを歩く俺を振り返ると、少しだけ目を細め、口の端を吊り上げた。 「セ・イ・カ・イ」  冗談で言ったのに正解してしまった。色々なダメージでまた鼻血が出そう。 「……というか、縷々さん、歩いている時まで本を読むのは危ないですよ」  縷々は歩きながら本を読んでいた。本がないと生きていけない人種なのだろうか。ここまで好きなものがあるというのは、何だか羨ましい気もするけれど。縷々は背筋を伸ばし、単行本を右手で広げながら、時折左手の細い指でページを捲る。 「歩きながら本を読むのにはもう慣れた。私は通行人ですら本を読んだまま避けるぞ」  避ければいいというものではないが、縷々の声は得意げだ。そんな縷々についつい突っ込んで聞いてしまう。 「それでは走りながらはどうでしょうか?」 「私は走らない。疲れるし、面倒なだけだ」 「急がなければならないことはあるでしょう」 「そのときは用件を諦める」
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