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割ってしまった。
ご主人様の大事な大事なお皿!
ご主人様が上司から結婚記念として貰ったという十二枚一組のお皿。
それぞれのお皿には各月のお花や動物の絵が書かれている。
飾り終わって、洗ってる最中に手が滑って床に落ちてしまった。
こなごなだ。
割ってしまったのは十一月の絵が描かれているお皿だった。
ほんと、あたしって、ドジなんだよなあ。
割れたのは一枚だ。
黙っていれば、次に飾る時まではバレはしないでしょう。だいたい、ひと月だ。
こなごなの皿は拾って紙に包んで、とりあえず、女中部屋のあたし用の私物入れにこっそりとしまった。
他の残ったお皿は、こっそり、物置部屋に閉まった。
それから、同じ女中仲間の、お菊ちゃんに内緒で相談してみた。
「やばいよ、お梅ちゃん!」
とお菊ちゃんは小さく叫んだ。
「それは、わかってるよ」
「むかし、別のお皿を割ったコは、中指切られたんだよ!」
「ええ! それはいややわー」
「そのあと、それを苦にして、井戸に身投げしたのよ」
「かわいそうだね」
「うん。で、それを恨みに思って、毎夜毎夜、お皿を数える声が、井戸から聞こえるのよ……いちまーい、にまーいって」
「いやいや、自殺して、それって逆恨みすぎるでしょ!」
「まあ、そうかもねー。でね、その時のお皿は十枚だったのね。で、九枚数えた後に……一枚たりなーいって言うのよ」
「それでどーなったの?」
「どーもなってないんじゃないかな。今でも出るって話だけど……」
「井戸で?」
「うん。でも、この屋敷に井戸はないわよね」
「昔、あったのかな?」
「あったのかもねー」
「もしかしたら、台所の蛇口から聞こえてくるとか」
「蛇口から、いちまーい、にまーい……って、こわっ」
そう言って、お菊ちゃんは身を震わせた。
「とりあえず、台所に行ってみるかー」
あたしとお菊ちゃんは台所に行ってみた。
夜中の台所は、暗かった。
蛇口がちゃんとしまっていなくて、ちゃぽんちゃぽんと雫が落ちてくる。
「どーする?」
お菊ちゃんが小さな声で聞いてくる。
「開けてみるか?」
蛇口を開いたら、水が流れてきた。
そして……
いちまーい、にまーい……
聞こえてきた。
お菊ちゃんの口から!
「おどすかすなよ!」
「ちょっとは、怖かった?」
「まあ、多少は。」
「さすがに中指を切られることはないどうから、明日、ちゃんと話して、あやまったら?」
「そうするしかないかなー」
「あっ、そういえば……」
お菊ちゃんは何かを思いついたようだった。
「なになに?」
「復活の呪文というのがどこかにあるらしいって聞いたことがあるわ」
「それって、割れたお皿も復活するの?」
「するする、きっとする」
「どこにあるのかな?」
「物置部屋かな?」
台所から物置部屋に移動した。
二人で、それらしきものがないか探してみた。
なかなか見つからない。
ふと、お菊ちゃんの方を見ると、屈んで床を手で探っている。
「なにしてるの?」
「あった!」
お菊ちゃんは、床板を一枚外した。
「なんで、そんなところ、はずれるのよー」
「なぞだね。でも、ほら、あやしいのが出てきた。」
そう言って、一枚の紙を渡してきた。
紙には、
ーーふつかつのじゆもん
と最初に書いてあり、そのあとはひらがなで意味が通らない文字の羅列が書かれていた。
「よし、部屋に行こう」
とお菊ちゃんに促されて、女中部屋に戻った。
私物入れから、割れた皿を取り出した。
包んである紙を開いた。
あたしは、復活の呪文を読み上げた。
ぴかーー!
と光って……
お菊ちゃんが復活した。
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