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昼休憩をはさんで売り場に戻ると、クリスマスのラッピング待ちで人だかりができていた。十時に店長、十二時に大学生の女の子が入ったものの全然追いついていない。
紺色のエプロンを着ているとポケットの携帯電話が振動した。大福のやつ、休憩所から抜け出したな。画面を開いて「C」のマークがついたアプリをタップした。フロア案内の中で小さな猫のアイコンが動いている。
大福の首輪には位置情報を知らせるチップが埋め込まれている。職場での移動は自由だけど、それ以外のフロアには制限がある。決められた場所の外に出ると飼い主の携帯電話にアラートが届く仕組みだ。
大福とフェレットの太一くんは脱走の常習犯だ。他の動物たちが出入りするすきまをすり抜けて、勝手にフロアを徘徊したりする。
早く捕まえないとショッピングセンターの主任に怒られる。大福の動きを確認していると五十代の男性に声をかけられた。
「年寄りがやるクイズみたいなのがあるだろ。あれってどこだい?」
僕は脳みそをフル回転して「クロスワードパズルですね。ご案内いたします」と売り場に出た。大福のことが気になるし、エプロンのひももからまったままだけど仕方がない。
「売り場はこちらの左手に……」
棚の角を曲がろうとすると腰のうしろあたりに妙な重力を感じた。ふりかえると大福がエプロンのひもに猫パンチを繰り出している。
見なかったことにしよう。そう思ったのもつかの間、大福の爪がひっかかって結んでいたひもがほどけてしまった。エプロンが前に垂れ下がる。
「大福……今は昼寝の時間でしょ」
「暇だからなんかやることないかにゃ」
「大福は暇でも僕は……」
「おや、ねこまできたのかい。忙しいときにすまんなあ」
男性の声に、接客中だったことを思い出して頭を下げた。
「いえっ全然大丈夫ですので!」
「あんたの仕事はなんだい?」
「僕はレジと接客で……」
「見りゃわかるよ。人間じゃなくてそっちのねこだよ」
「タイヨウがどんくさいから見張ってるのにゃ」
「誰がどんくさい……」
大福をつかみ上げると男性は「あっはは」と笑った。謝る僕の胸元を見てうなずくような動作をする。
「あんたらがこの店の『白ねこ』か。ありがとさんよ」
あとは自分で探すからというので、僕は大福を抱えてレジカウンターに戻った。案の定、サッカー台にはラッピング待ちの絵本や知育玩具があふれている。
大福をカウンターに乗せようとして、やめた。クリスマスの包装紙がカサカサと鳴る音や、大福が大好きなワイヤー入りのリボン、パンチすれば小気味よく転がっていく丸いボンボンがついたタグと、邪魔をするのが目に浮かぶようだ。
「店長、大福が来たのでレジに入ります」
「あっ大洋くん、助かるー! 俺は図書カード包装に入るから! 大福くん、よろしく頼むよ!」
店長に頭をぐりぐりとされて大福はものすごく嫌そうな顔をした。彼は大型犬を三匹も飼っているからか動物の扱いが豪快だ。あずきさんなんて触らせもしないらしい。
隣のレジには斎さんとあずきさんが入っていた。動物同伴のメンバーは、パートナーの動物が出勤しているときは率先してレジに入る。動物と一緒にレジ打ちをするとなぜがお客さんからのクレームが減って、レジキーの打ち間違いも少ないらしい。
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