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代わるなり店長は図書カード包装を始めた。五百円のカードを七十三枚、千円のカードを三十四枚と大口の注文だ。岡内さんと二人で次々と台紙にカードをセットし、包装紙でくるんでテープで止めていく。
レジカウンターに座る大福のしっぽが左右に動いている。包装紙が重なりあう音に反応しているんだな。あの作業、大福がいるときは絶対にできないなと思いながらレジにサインインする。
「いらっしゃいませ」
差し出された児童文庫を受け取ると、カウンターの向こうには小学五年か六年くらいの女の子が三人いた。きゃいきゃいとはしゃぎながら、キャッシュトレーにひたすら十円玉を並べていく。
「小銭にいっぱいあるねー」
「全部出しちゃいなよー」
「えーでもー」
「ほら手伝うからー」
小銭を出すのはかまわないけれど、もう四十枚以上ある。後ろには長い列。僕にもこんな時代があったのだから忍耐だ、と思いながら大福を見る。よし、目は閉じているな。耳も動いていない。
「わっすごーい、五円玉もいっぱーい」
「出しちゃえ出しちゃえー」
支払う本人は「えーでもー」と言うのに、他の二人が勝手に財布から小銭を出した。君たちいい加減にしなさい、誰がその小銭を数えるんですか。
「もう少し大きいお金はありませんか。こんなにたくさんの小銭は困り……」
なるべくやんわりと言おうとしたとき、大福の前足が小銭に乗った。しかも爪を出して、ちょいちょいとキャッシュトレーから小銭を落とそうとする。
「あっ……大福!」
「ちゃりんちゃりんが大福を呼んでるにゃ」
「呼んでない! それはお客さんのお金……」
「タイヨウにも聞こえるにゃ。ちゃりんちゃりん、ちゃりんちゃりん、ちゃりんちゃ……」
まずい、瞳がまん丸になってると気づいたその時、「りんにゃー!」と叫んで大福はトレーごと小銭をひっくり返してしまった。
「ああー! スミマセーン!」
大福と小銭を押さえようとしたが二兎追う者は一兎も得ず、大福はカウンターから飛び降りて生き物のように跳ねる小銭を追いかけ、まさかのあずきさんも参戦しての大惨事となった。
斎さんのレジカウンターにお客さんを誘導しながら小銭を拾い集めた。泣きたい気持ちだったけれど、必死にレジを打つ彼女も「申し訳ございません」と謝るので心の中で「ごめんなさい」と唱え続けた。
もっと早く大福を制するか、小銭を断っておけばよかった。
結局、お客さんにも助けられて小銭は回収できた。女の子たちはしおらしく頭を下げている。
「ごめんなさい。もう小銭はたくさん出しません」
「いえ、こちらこそ……大福も謝りなさい」
「本能だから仕方ないのにゃ」
僕はがっくりと肩を落とした。ちょっとくらい反省するとかないのかな。
「何すんのにゃ!」
もがく大福を羽交い締めにしてレジカウンターの裏手にある事務所に入った。ロッカーの端にねこ用の水とトイレが置いてあり、ペットベッドで休むこともできる。
「ここで反省してなさい」
「いやにゃ。お仕事するにゃ」
「じゃまされたら仕事にならないの」
「稼いでちゅるんを食べるんにゃ」
どこで「稼ぐ」なんて言葉を覚えたのか知らないけど、それを言われるとつらい。
「わかった。今日は残業したいって店長にお願いするから、ここにいて。夕方の当番のときは起こすから……」
「タイヨウなんかキライにゃ」
大福は段ボールにとび乗った。こちらに背を向けて丸くなる。ふて寝はいつものことだけど、キライって言葉はストレートに傷つくなあ。
すれ違いにあずきさんが入ってきた。ふさふさのしっぽを立てながらそっとつぶやく。
「ちゅるんのために働きたいなんて、大福ちゃんもタイヨウさんもお子さまね」
くすっと笑った気がしてふりむくと、彼女はペットベッドで毛繕いをしていた。
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