2.大福はレジカウンターにいる

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 夕方四時になってようやくお客さんの足がまばらになった。散らかったサッカー台を片づけていると文庫の補充品を出しにいっていた斎さんが戻ってきた。 「さっきはすみませんでした」 「さっきって?」 「大福が小銭をはじいちゃって、ご迷惑を……」 「いいのよ、あずきもやったんだから」  斎さんはふわりと笑った。レジキーに手を伸ばしたかと思うと、思い出し笑いをしたかのように「ふふっ」と声を漏らす。 「どうしましたか?」 「あずきもおてんばだったなあって懐かしくなっちゃって」 「あずきさんが? とてもそんな風には」  さっき「お子さま」って言われたところなんだけどと思っていると、斎さんはキャッシュトレーのふちを細い指でなでた。 「プライドが高いしわがままだし、でも寂しがりやだから家に置いておけなくって。同伴出勤し始めた頃は大変だったの。お金をはじいたのなんか一度や二度じゃないわ」 「意外です……」 「触られるのが嫌いだから、従業員の手を噛んじゃったこともあってね……あのときは大変だったけど、やっぱり一緒に働けて幸せだと思ってるから」  カウンター下のブックカバーを手にすると、きちんと角をそろえて整えた。 「白河くんもがんばって。私たち、応援してるから」 「……はいっ!」  斎さんのエンジェルスマイルに疲れが吹きとんだ。明日はクリスマス・イブでかなり忙しいらしいけど、どれだけ残業してもがんばれる気がする。 「これ、お願いしますね」  レジにおばあさんが立っていた。定期購読カードを受け取りながら「いつもありがとうございます」と頭を下げる。  この人は分冊百科『すてきな編み物』を定期購読している常連のお客さんだ。  バーコードを読み取りながら、高いなと正直思ってしまう。創刊号は特別価格の298円だが、二号目以降は1416円になる。箱の中には編み物用の針や糸、説明書が入っていて、一号ずつ編んでいくと大作ができる仕組みだ。  発売日は隔週火曜日。今日で五十号目なのでそれなりにお金がかかっているはずだ。『ニャオちゅるちゅるん』四本入り一パック130円だと合計……  思考レベルが大福と同じじゃないかと気づいて計算するのをやめた。おばあさんは高級そうな長財布から一万円札を出している。  そこへ大福がやってきた。大きなあくびをしてレジカウンターにとび乗る。お客さんがいるところでおしりの手入れをするなんて、やっぱり反省してないじゃないか。 
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