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「白河くん、どうしたの?」
斎さんの声を聞いて、僕は踏み台から下りた。汚れてしまったブランケットを渡して懐中電灯を探す。
「通気口の中に入ったみたいです。探してきます」
「ええっあんなところに……じゃあ私も」
僕は上着を羽織って、出て行こうとした斎さんを引きとめた。
「もう退勤時間からずいぶん経っていますし、あずきさんを迎えに行ってあげてください」
「でも……」
「斎さんを待ってると思います。僕もすぐに大福を連れて帰りますんで」
斎さんは戸惑っていたけれど、清水くんに手荷物とケージを押しつけられて事務所を出た。「ごめんなさい」と口元が動いていたけれど、こちらこそごめんなさいと思う。
懐中電灯を片手に出ようとすると店長に腕をひかれた。受話器を耳に押し当てながら「ちょっと待て」とつぶやく。
「あ、元さん? 仕事中に悪いんだけど、通気システムの見取り図まわしてくれない? あーうん、ちょっとねーうちの従業員が迷い込んじゃったみたいで」
うん、うん、とうなずきながら僕を見る。元さんって誰だろう、と思っていると店長は電話を切った。
「設備の管理スタッフに連絡したから、もうちょっとここにいて。闇雲に探しても見つけられないだろ」
「すみません……」
「犬ならともかく、ねこの行動は予測できないしなあ。しかし自分の充電コードだけ噛みちぎるとは、大福くんも頭がいいんだな」
あらわになった銅線をブラブラさせながら店長は苦笑した。
子供の頃、飼っていたねこもそうだった。ヒーターやこたつの線は噛まないのに、僕の携帯ゲーム機の充電器ばかり噛みちぎるのだ。僕は泣いて怒ったけど、母さんは「ゲームばかりしてるから、相手をしてほしいんじゃないの?」と言っていた。
「僕が……ちゃんと相手をしなかったから」
「何言ってんの。仕事は仕事、大福くんだってわかってるからあきらめたんでしょ」
「そうでしょうか……」
「おっ、来た来た。元さんこっち」
しょぼくれている僕の肩越しに、店長は手招きをした。設備スタッフの制服を着た中年の男性が姿を見せる。
「なんだよ、従業員が迷い込んだって。入れるわけないだろうが」
「いやーそれが入れちゃったんだなあ」
「何を訳のわからんことを……」
帽子のつばを上げた男性と目が合った。僕は「あっ」と声を漏らす。
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