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「先日クロスワードを探しにいらした方……」
「ああ、あの時の。なるほど、入ったのは例のねこか?」
男性は2mほどある脚立を軽々と持ち上げると、通気口を見上げた。店長から手渡されたプラスチック製のふたをはめたが、すぐに落ちる。
「ひっかけるところが劣化したんだな。そういや少し前もインコが迷い込んだことがあったなあ。あのときは追跡できたらしいが」
「それが……首輪の電源が切れたみたいで」
「それなら出られるところを当たってみるか」
「そんな場所、あるんですか?」
「これと同じように劣化してたら、あのねこの体重なら割れるかもしれんしな」
元さんは電話をかけ始めた。まるまるとした大福を思い出す。「食べすぎです」とお医者さんには言われていたけれど、こんなことで役に立つとは。
「あんた、出勤中か?」
「いえ、一時間ほど前に退勤しています」
「そんじゃ一緒に来い。何か所か通気口カバーがはずれてるところがあるらしい」
「ありがとうござ……」
「俺も行きます」
僕がお礼を言い切る前に、清水くんが言った。いつの間にか帰り支度をすませてジャケットを着こんでいる。
「でももう遅いし……」
「暇なんで」
あと頼まれてるんで、と付け足して元さんのタブレットをのぞき込んだ。頼んだのは斎さんだろうか。元さんから目的地までの進み方を聞いている彼を見て、僕がしっかりしないでどうするんだと思う。
「じゃあ白は俺と来な。兄ちゃんは従業員出入口を出た所に別のスタッフがいるから、そいつに鍵を開けてもらってくれ」
「あの、白って……?」
「あんた、白だろ?」
「白河ですが……」
そんな呼び方をされたのは初めてだった。戸惑う僕の背中を店長が叩く。
「報告業務があるから行けないけど、なんかあったら連絡して。手の空いてる人間を回すから」
「忙しいときに何から何まですみません」
深々と頭を下げて事務所を出た。足早に歩きながら元さんから説明を受ける。空いている通気口は三か所。一か所は別のテナント、あとの二か所はフロア外の通路と資材置き場らしい。
レストラン街の窓から外が見えた。白い粉雪がはらはらと暗闇に舞い落ちる。初めて大福に会った日を思い出しながら、元さんのあとについていった。
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