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4.大福はコリオスさんといる
「大福ー!」
元さんと二人で薄暗いバックヤードを回った。大きな物音を立てて大福が逃げてしまわないように、声かけをしながらそっと段ボールやカートラックを移動させる。
売り場をぐるりと取り囲むようにバックヤードがあり、従業員用の出入口が三か所あるのは四階と同じだ。けれど間仕切りが違うだけで全く異質の、迷宮に入ったような感覚がした。
「ねこが入り込みそうなところって……」
「まあそこら中にあるわな」
「ですよね……」
岡内さんにもらった『ニャオちゅるちゅるんプレミアム』を使うにしても、姿が見えてから開封しないと液状のエサがこぼれてしまう。
「食いしん坊かい?」
「え?」
「だからあの大福ってねこは食い意地がはってんのかい?」
「ええ、まあ」
「腹が減ったら誰かにねだりにいくんじゃねえか?」
僕もそう思っていた。でも姿を見せない。どこか身動きの取れない場所に入ったんじゃないかと、不安ばかりがふくらんでいく。
「仕掛けるか」
つぶやいたかと思うと、元さんはほこりにまみれた配管を指さした。
「不審者の侵入に備えてバックヤードにも監視カメラを設置してある。映り込むところにエサを置いて、姿が見えたら連絡してもらうってのはどうだ」
「お願いします!」
「すぐどっかに行っちまったらどうようもねえけど……」
元さんが電話をかけ始めたので、僕は急いでペットショップに向かった。仕掛けるなら、おやつ用の『ニャオちゅるちゅるん』だけじゃ足りない。三階のペットショップでドライフードと水、生活雑貨の売り場で紙皿も買おう。
ペットショップにかけこむと、店員の宇佐美さんに声をかけられた。
「大福ちゃん、見つかりましたか?」
「それがまだ……あの、エサを仕掛けようって話になって」
手短に説明するあいだ、彼女は結った髪を触りながら不安げに僕を見つめていた。
「あっこれ、試供品なんですけどよかったら使って下さい」
「助かります」
大福は優しい宇佐美さんが大好きで、もらった試供品もいつもぺろりと平らげている。会計をしながら、休憩中の従業員が手分けして探してくれていると話してくれた。
「見つかったらすぐに連絡下さいね。怪我をしているようだったら獣医さんに連絡しますから」
「申し訳ありません。ありがとうございます」
ドライフードの袋を抱え上げると、レジの真横にエサと水が置いてあることに気づいた。大福の大好物、にぼしとカニカマ入りにカリカリだ。
大福がそこにいるような気がしてじっと見ていると、宇佐美さんは「あっあの」と手を振った。
「差し出がましいかと思ったんですが、動物さんが待機していないお店に大福ちゃんの好物を置かせてもらったんです。きっとすぐ見つかりますよ。うちの子もそうだったんで!」
彼女は瞳をうるませながら、ぎゅっと両手のこぶしを握った。僕まで鼻の奥が痛くなって、深く頭を下げた。
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