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「予約も多かったですし、あっという間に完売しました。案内を出しておきますね」
「再版なしって連絡きてたから、付けたしといてくれる?」
「今朝のメールで確認しましたので、記入済みです」
「大洋くんは仕事が早いねえ、大福くん」
大福は三角耳をうしろに反らすと、しっぽをパタリとカウンターに打ちつけた。聞こえているのか知らんぷりをしているのか、ねこの反応は要領を得ない。
店長が大きな手でなでようとすると、大福はレジカウンターから下りてしまった。ああもう、レジ番をお願いと言ったのに。
大急ぎでコミック雑誌の棚に「週刊ジャンピング、完売しました。再入荷の予定はございません」と印字された紙を貼った。こうしておかないと、一日中「週刊ジャンピングはどこですか」と聞かれるハメになる。
振り返るとレジ前に列ができていた。出勤したばかりの店長がレジ打ちをしている。
「すみません、僕が入り……」
言い終わらないうちに電話が鳴った。開店五分前から電話は鳴りやまず、新米の僕とベテランパート主婦の岡内さん、社員の斎さんは注文品の仕分けもままならないままレジと接客、電話対応に追われている。
もう一人のアルバイト清水くんは、書籍が入った段ボールを開封する作業、通称「箱開け」に取りかかっている。毎日のことだけれど、朝の忙しさだけはいつまでたっても慣れない。
こんなときに大福はどこに行ったのだろう。電話対応をしながらフロアを見渡すと、文庫の書籍棚の上で寝ていた。ああ、あそこは掃除が行き届いていないからほこりまみれなのに。
下りてきたら体をふかなきゃな。受話器に置いたとたんにまた電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。コリオス書店、白河でございます」
「週間ジャンピングの取り置きお願いしたいんですけどー」
「申し訳ございません、完売いたしました」
頭を下げながら通話を切ると即座にコール音が鳴った。一呼吸おいて接客用語を口にする。
「あのお、週間ジャ……」
聞き終わらないうちに「完売」と言いそうになって、笑顔で言葉を飲み込んだ。
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