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コリオス書店の朝は爽やかな挨拶から始まる……とは限らない。
「ものすごい量ですね……」
カートラックに山と積まれた雑誌のビニール梱包を僕は見上げた。昨日もおとといもその前も、通常時よりも入荷数の多い日が続いているのに、さらに上回ってくるとは。
「今日は語学のテキストとテレビ誌、パズル誌も重なったからねぇ。ざっと見た感じ七十個くらい? 大洋くんは年末初めてだっけ」
「はい、初出勤は一月に入ってからでした」
「二十八日まで毎日こんな感じよ。年明けの棚卸しが終われば少し落ち着くと思うけど」
岡内さんが書籍フロアに雑誌の梱包を下ろし始めた。清水くんも数えながら次々と下ろすので、僕もあわててあとに続く。
朝のメンバーは八時半の出勤だ。レジや周辺機器の電源を立ち上げながらシフト表と連絡ノートに目を通し、雑誌と書籍の入荷数を確認することから一日が始まる。
「書籍は五十五です。客注は五、ブック特急便は二。書籍オッケーです」
書籍の箱を数えていた斎さんが送品伝票を確認しながら「雑誌は全部で七十八、客注は四です。供給が二あります」とつぶやいた。
「はいはい、雑誌客注は四っと」
十八、十九、と歯切れよく数える岡内さんのそばで、清水くんが「二十三、二十四、二十五」と高速で梱包をつかんでいく。えっと僕は十四……十五だったっけ?
続けざまに数字を聞いているうちに怪しくなった。偶数になるよう右手、左手と交互に下ろしていたのに、途中でコミックのアニメ化セットをひと箱抱えたので奇数になってしまった。
「二十……あっ大福! しっぽどけて!」
梱包を置こうとしたところに大福が鎮座していた。両手がふさがっているから声を上げるしかなかったけれど……
大福がとびはねると同時に僕の短期記憶も吹っとんでしまった。
「二十……四、じゃないです。ごめんなさい、数え直します!」
すでに荷下ろしを終えていた岡内さんと清水くんは手早く分かれて両端から順に数え始めた。僕はじゃまにならないように荷台に乗せたコミック雑誌だけを数える。
「私、三十五!」
「俺は三十九」
「僕は四です……」
「はい、七十八。客注と供給もオッケーです」
言うなり斎さんは雑誌のビニールバンドを切り始めた。三つ年上の彼女はコリオス書店四年目の社員さんで、暗算が早い。学生の頃から別の書店でも働いていたそうだ。
個数確認が終わるとすぐに怒涛の開封作業が始まる。開店時間は九時。それまでに開けた雑誌をフロアごとに振り分けて、レジの入金も済ませなくてはならない。
ひとつの梱包に一種類の雑誌しか入っていないものもあれば、混載といって様々な種類の雑誌やムック本、コミックがひとまとめにされている梱包もある。付録が混ざっていると分けるのも大変だ。
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