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実用書担当の岡内さんが女性誌に付録をはさんで次々とゴムバンドをかける。黄色いバンドは複雑に分かれ目があって、雑誌の角に引っかけるとひし形になる。
清水くんが次々とビニールバンドを切るそばで、僕は必死になってビニール袋を開けた。切る、開ける、送品一覧が記載された頭紙を外す。梱包紙をやぶって付録を取り出す。雑誌本体に痛みがないか確認し、種類別に分けてブックトラックに乗せる。
この動きになれるまでずいぶん時間がかかった。足元は瞬く間にビニールと紙で埋め尽くされ、ひとつずつ片付けている時間もない。
清水くんは両腕に大量の雑誌を抱え、ビニールを蹴散らしながら品出しを始めた。斎さんは「デイリーフランス語が二、中国語CD付テキストが一、ドイツ語ベーシックが一、ナンパラダイス増刊号一、スケートマガジンファイナルシーズンが一……」と抜き取らないといけない客注品をつぶやいている。
「やばっ十分前! 大洋くん、レジ開けてきて!」
「はっはい!」
岡内さんに言われ、抱えていた雑誌をブックトラックに乗せた。移動しながらブルドーザーのようにビニール袋をかき集めてゴミ袋につめ込む。そこへどこからともなく大福がダイブする。
「あっこら! 大福、出て!」
腕を突っ込むとバンドとビニールにまみれた大福がとび出した。叫ぶ僕にかまわずフロアに散乱している紙にスライディングをする。
「朝はレジカウンターに座ってる約束でしょ!」
「あそこは寒いからいやにゃ」
「もうじき館内空調が効き始めるから早く……」
ああもう、開店七分前だ。茶色い紙と格闘する大福をわしづかみにしたけれど、するりと抜けられてしまった。いつも思う、ねこは液体だ。向こうの気分が乗らなければ抱っこもさせてくれない。
「お願いだよ、お客さんが来ちゃうから」
絶望的な気持ちで大福を追いかけようとすると、ぴたりと動きが止まった。
「だめよ、大福ちゃん。じゃましちゃ」
大福の鼻にツンと鼻先をつけたのはペルシャ猫のあずきさんだった。
「タイヨウさんが困っているじゃない?」
「う……でも寒いのはいやにゃ」
「シュリンカーをつけてもらいましょう。ね?」
「はいにゃ」
あずきさんの一言で大福はブックトラックにとび乗った。早く押せとばかりに僕を見る。
「お客さんが来るにゃ」
「わかってるよ!」
ブックトラックを押し始めると、未開封の梱包を片付けていた斎さんがフッと笑い声を漏らした。束ねた長い髪が揺れて、僕は足を止めそうになる。
「大福さん、今日もよろしくお願いしますね」
「まかせとくにゃ」
大福の言葉に腰が砕けそうになったけれど、かまわずレジカウンターに向かった。斎さんの飼い猫であるあずきさんは彼女についてバックルームに入る。
二台あるレジを四分で開けるのだ。僕ならできるはずだ、きっとそうだと言い聞かせながら開店時間を迎えた。
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