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「やっと終わった……」
午後六時を過ぎて一息つくことができた。五時に退勤するはずがクリスマスのラッピングと図書カード包装のラッシュに追われてレジカウンターから抜けられなかったのだ。
一緒に上がった斎さんは涼しい顔でエプロンをたたんでいる。
大福を運ぶためのリュック式ケージを背負うと、彼女と目が合った。こっそり横顔を盗み見ていたことがバレたかな。
「白河くん、お疲れさまでした。朝から大変でしたね」
「斎さんもお疲れさまでした。僕も大福も足を引っ張ってばかりで申し訳ないです」
「そんなことないですよ。わたしもあずきも頼りにしていますから」
彼女の瞳がゆるい弧を描いた。この世のものとは思えない美しい曲線に見とれてしまう。
「大福さん、お待ちかねでしょうね」
「あずきさんも。お迎えにいきましょうか」
そろって事務所を出ると、四階のバックヤード奥にある休憩室に向かった。となりに動物たち専用のスペースが設けられ、大福とあずきさんは出勤時間以外はそこで過ごしている。
従業員証をスキャンして中に入ると、キャットタワーのてっぺんで大福が背を向けて座っていた。
「おーい大福、帰るよー」
「タイヨウ、遅いにゃ」
「むちゃくちゃ忙しかったんだよ」
「十分遅刻につき『ニャオちゅるちゅるん』一本にゃ」
「そんなにストックないよ……」
大福はなんだかんだと言いながら下りてきて、リュック式ケージに入った。
「お疲れさまでした」
斎さんはショルダータイプのケージにあずきさんをおさめて会釈をした。私服はグレーベージュのコートにくるぶしまである白のロングスカート。儚げな立ち姿に淡いパールピンクのケージがよく似合う。
一緒に帰りたいけれど斎さんは電車通勤、僕は自転車通勤だ。
「お疲れさまでした。また明日よろしくお願いします」
「はい、また明日」
そっと微笑むと彼女は残っている他の動物たちにも声をかけながら退室した。あんな女性と暮らすあずきさんは幸せものだなあ。
夕日が差し込む部屋でぼんやり突っ立っていると、腹が鳴るのと同時に大福の鳴き声が聞こえた。
「はいはい、わかってるよ」
リュックを担ぐと背中に大福のぬくもりを感じた。奥から犬のか弱い鳴き声が聞こえる。早くご主人さんが戻るといいね、と思いながら扉を閉めた。
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