六章

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勝手に俺の脇を通り過ぎる彼女の腕を掴んだ。 飛鳥は、潤んだ瞳で俺を見据えている。何かを考えるように視線を落としていく。 「家に来るって、またこの間のようになること、わかってる?」 「分かってる…だから、だよ」 「…いや、益々訳がわからないんだけど」 「あの…その、えっと、れ、練習というか…」 「練習?」 首を捻って問うが彼女自身も言いたいことがよくわかっていない様子だ。 ただ、練習というワードに彼女の腕を掴む力が強くなった。 推測でしかないがお互いの関係は他言してほしくない、だけど俺の家には行きたい、そして朝倉さんへの態度―…。 これらを合わせると、彼女の言動が理解できる。 「じゃあ金曜日は俺の家に泊まるってことで」 「…うん」 「朝倉さんには…―」 「うん?」 「いや、何でもない」 ようやく彼女の腕を離した。二人で物品庫から出ても尚、飛鳥の頬は赤らんでいた。 まだ飛鳥は朝倉さんのものではない。朝倉さんのものになる前に…―。 ♢♢♢ 「今日は金曜日ってことで、どうします?みんなで飲みに行きますか?」 「あー、俺はパスで。今日予定あるんで」 「ええ~何の予定ですか?まさか彼女出来たんですか!」 「いないって。何回言えばいいんだよ」 「だって、椎名先輩意外と秘密主義なんじゃないかって思って」 森永が飲みに行きたがっているようだが、俺はすぐに断った。 他の人は行くようだが、今日は“予定”がある。
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