七章

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好き同士になるということは本当に奇跡のようなことなのだと思った。皆が普通にしている恋愛がこうも難しいものだとは…。大学受験の二次試験の過去問を永遠に解いている方が簡単だ。 電車を乗り継ぎ、到着したのは入り口付近から既に混みあっている大きな水族館だった。 「入館券買ってくる」 「いいよ、私の分は私が、」 「そのくらい甘えろって。俺が誘ったんだから」 と、強引に言われて分かったといった私は彼の背中を見ていた。 背が高く、顔も雰囲気もイケメンだからなのか時折周囲の人の目線が彼に向く。 倍率を考えると、東京大学へ進学するよりも難しいのではないか。彼と付き合うということは…。 “私しかない武器“が存在しないならば、やはり厳しいのだろうか。 受験に受かるための引き出しならば幾らでも持っているのに、どうしてこんなに恋愛は難しいのだろう。 気難しい顔をしていたのだろう、椎名君が戻ってくると「何て顔してんだよ」と言われる。 「ごめん、ちょっと考え事」 「俺といるときは俺以外のこと考えるなよ」 「…どうして?」 「どうしても」 はい、と入館券を渡された。どうしても自分の分は自分で支払いたくなるのをぐっと堪えた。 辺りを見渡すと家族連れも多いがカップルも多かった。手を繋ぎ、楽しそうに顔を近づけて喋っている。
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