七章

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電車で揺られながら私たちは無言だった。 最寄り駅に到着してもなお、会話はなかった。 話したい内容は幾らでも思い浮かぶものの、それをどう言葉にして伝えるのか悩む。 それに…―。 椎名君も無言なのはもしかしたら私と同じように思っているからかもしれないと思った。 駅の改札を抜けても私の手は彼に握られている。 「とりあえず、俺の家でいい?」 「うん」 ようやく椎名君が喋ったがどっちの家に帰るのかの確認だったが、椎名君の自宅の最寄り駅に下りている時点でどこに帰るのかは決まっている。 自宅に帰宅するとようやく手が離された。 汗が滲んでしまっていないかどうか気になった。 「今日は…ありがとう。楽しかった」 「こちらこそ、ありがとう」 お礼を言って椎名君が座るソファの隣に腰かけた。 水族館は楽しかったはず、だ。だが、水族館デートの記憶が霞んでくるほどに彼の告白が衝撃的だったし、私も勢いで告白をしてしまっていた。 「椎名君って…セフレとかいないよね?体だけの関係の人」 「いない。いたら告白してない」 「…そうだよね。うん、ありがとう」 「俺たち付き合ってるっていう認識でいいんだよな?」 「うん。えっと…会社には内緒だよね?だって…」 何度も付き合っているという事実を私に再確認してくる。
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