七章

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顔を近づけてくる椎名君に対して目を閉じる。触れるだけのキスだった。 付き合って初めてのキスはファーストキスよりも緊張した。 どうしてなのかわからない。好きだと伝えたことが原因なのかもしれない。煩い心音を鎮めるように深呼吸をした。 「なんで嫌そうなんだよ」 「嫌じゃないよ!なんか…ちょっと緊張して」 「…ふぅん」 椎名君は私の態度に不満だったようだ。 「会社ではどうすればいいのかな?」 「はぁ、どうしても気になるんだな。そこ」 「重要だよ!だって…椎名君はせっかくこれからっていうときに…私も仕事は頑張りたいし…」 「はいはい。分かってるよ。まぁ、そうだな」 周りから見れば、もしも私たちが付き合っているとわかったら接しにくいと感じるだろう。なかなか同じ部署で付き合っていると公言している社員はいない。 どちからが自然に異動になったタイミングで周囲に話すというケースが多い。 「とりあえず内緒にしておこうか」 「飛鳥はそれでいいの?」 「うん。だって…どっちかが異動なんだよね?」 「そうだけど。別に異動なんて大したことないけど」 「だって…北海道とかだったら遠距離だよ?さすがにそれはハードルが高いよ…」 椎名君は確かに、とげんなりして溜息を吐いた。 「分かった。じゃあ周囲には内緒で。でも彼女はいるって言っていいよな」 「それは…うん」
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