七章

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お互いにルールを決めた。まずは、付き合っている人がいることは他言してもいいが、それが椎名君や私だということは言わない。 また、退社時間や出勤時間もなるべく被らないようにする。 そしてどちらかが自然な形で異動してから、公表することにする。 今バレてしまうとおそらく私が異動することになるが、自然な形ではない異動は出世に響く。これは椎名君も同様だろう。ストレートに出世街道を進む彼を邪魔することになるし、私だって同じだった。 それに確かに同じ部署に付き合っている二人がいると周囲は気を遣うだろう。 総合的に考えれば、内緒にした方がいいのだ。 「じゃあご飯作るよ」 「俺も手伝う」 「いいよ、座ってて」 「なんで?」 「…別に理由はないんだけど」 「付き合うってなってからよそよそしいんだけど」 「そうかな?」 「そうだよ」 そのつもりはないのだが、態度に出やすいので彼から見るとそうなのかもしれない。 「聞いてもいい?どうして私のことを好きになってくれたの?まだ実感がないんだけど…」 「好きになるのに理由なんかない。気づいたら気になってたし、同時に焦ってた。朝倉さんのことが好きなんだろうなって思ってたからあの人と付き合う前に何とかしたい。でも同時にお前の気持ちも大切だから無理やり付き合ってもらうのもって…ま、強引に付き合ってもらうことにしたんだけど」 椎名君は悪戯に笑う。 「そうしたら勢いで告白してた。結果良かったんだけど」 「そうだね」 椎名君の葛藤も垣間見える会話をした後、私たちは夕食を作った。 何とも甘い雰囲気が溢れていた。
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