八章

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椎名君と付き合って一週間が経過した。 職場で付き合っていることに気が付いている人はいないようだ。 私も演技が上手くなったようで一安心。 仕事が忙しく、皆それどころではないようで部署内は殺伐としていた。 そんな中、月曜日から熱を出してしまった。 「…ごめん、えっと仕事は…来週まで各支社に配信する資料があって、それは商品開発部の共有フォルダに入っていて、」 「分かってるって。いいから、飛鳥は休むこと。仕事は俺が全部やっておく」 「そんなの無理だよ!それでなくても椎名君って仕事量他の人より多いんだから」 「当たり前だろ、マネジメントの補佐なんだから。全員の仕事把握とそれらをチェックしたりするのが俺の仕事なんだから」 ぐったりとしてベッドで寝ている私を見ながらネクタイを締める彼を虚ろな目で捉える。 頭も痛いし、全身のだるさに加えて熱がある。 38度を超える熱は久しぶりだった。多少体調が悪くても出社するであろう仕事量だったが、これだけ熱があれば周囲に移す可能性もあるしそもそも仕事に集中できないだろう。 だから休むという選択しかないのだが…。 どうしても仕事のことで頭がいっぱいだった。 私と椎名君はほぼ半同棲のような生活をしていた。 今日はちょうど私の部屋に彼が泊まっていたから、そのまま出勤するようだ。 家の中には彼のスーツのほか、歯ブラシも二本になって、着替えや私服も増えてきている。 どちらの家に泊まっても生活ができるような状況だ。
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