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電話越しからは雑音が聞こえていたからおそらく彼は既に会社を出ているようだ。
「大丈夫です。えっと…熱があって。会議も休んですみません」
「いいんだよ。それよりも飛鳥ちゃんの家の近くまで来てるんだけど、飲み物と食べ物買っていくよ。あ、もちろん家に上がろうなんて思ってないから大丈夫だよ。気になるなら家のドアノブにかけておくから」
「いえ!大丈夫です、それに…」
「近くまで来てるから気にしないでいいよ」
朝倉さんはやや強引に電話を切ってしまった。
確かに、今朝起きたときに熱があるのが分かったから、事前に風邪でも食べやすいゼリーなどはない。お粥を作ろうにも気力がなかった。仕方がないからインスタントのスープを飲んでいたのだが、さすがにお腹が空いてきた。
でも、やっぱり朝倉さんに自宅まで来てもらうのは気が引ける。
椎名君に知られたら誤解されてしまうかもしれない。彼にもう一度電話を掛けようとした瞬間、インターホンが鳴った。
インターホン画面を確認すると、マンションエントランスには朝倉さんが立っていた。
ここまで来てもらって帰ってもらうことも出来ない私はオートロックを解除した。
家のインターホンが再度鳴り、玄関先へ向かう。
パジャマ姿を見せるのは恥ずかしいからカーディガンを羽織る。
しかし、鍵を開ける前に電話がかかってきた。朝倉さんからだった。
「もしもし…あの、」
「いいよ、きっとパジャマ姿だろうから。ドアノブにかけておくからお大事にね」
「…すみません、ありがとうございます。お金はあとで絶対払いますので、」
「いいよ、それくらい。しっかり休んでね。絶対無理しないように」
ありがとうございます、と言って電話を終えた。
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