一章

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「今日から商品開発部に配属になった椎名雅です。よろしくお願いします」 軽く頭を下げ皆の視線を吸収する彼の名前を知らない人はこの社内にはいないだろう。 グレーの仕立ての良いスーツを着て立っている椎名雅(しいなみやび)は、今日から私の所属する商品開発部に配属になった。 グレード(階級)は私より2つも上だ。年内にマネジメント試験を受けるという噂だがポジション的にもチームリーダーの補佐役だから当然だろう。 大手食品会社に入社して今年で5年目になる。 彼、椎名雅も同期入社だ。 実は、入社時から騒がれていたのだ。東京大学首席で卒業した超絶イケメンがいるという噂は決して盛られているわけではなく“その通り”なのだ。 茶褐色の髪の毛は光に照らされると少しばかり明るくなる。漫画やアニメから飛び出してきたと言っても過言ではないほどに端正な顔立ちをしている彼は、綺麗な二重にバランスの取れた唇、眉間から鼻先にかけて鼻梁が高くまっすぐ伸びていて本当に人形のように美しい。 椎名雅がこの会社で有名なのはルックスがいいから、だけではない。 仕事も驚くほどに出来る。そもそも彼は大学を首席で卒業しているから頭はいいのだが、だからと言って大企業という連結グループや子会社を合わせれば1万人以上いる社員の中で目立つほど仕事ができるのは頭の良さだけではないだろう。 しかし彼は本来であればまだ若手の部類に入るわずか5年目にも関わらず、既にマネジメント試験を受けられるほどのグレードに異例のスピード出世を遂げる。 どの部署へ異動しても絶対に結果を出す。 有名にならないわけがない。
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