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各駅に到着するたびに肩が椎名君と触れそうになる。
意識するのも変だと思い、背筋を伸ばしながら私も正面を向く。
「へぇ、なるほど。よかったじゃん」
「うん…良かったんだけど、お兄ちゃんが結婚するんだって。それで、私にも結婚してほしいみたいで。今まで親の期待に応えようって思って頑張ってきたけど…」
「飛鳥は自分の人生を生きた方がいいよ」
「え…―」
「別に親の言う通りに生きる必要はないだろ。結婚だってしたければすればいいし、したくなければしなくていい。親がいなくなったらどうすんの?生きる意味がなくなるんじゃないの」
「それは…、」
「これからは好きに生きた方がいい」
椎名君の言葉は全くもってその通りだった。彼の発する言葉はいつも私の胸の深い部分に降り積もっていく。
「飛鳥は飛鳥じゃん」
気がつくと目頭が熱くなっている。それを隠すように視線を下げていく。
「ありがとう…椎名君はいいやつだね」
「どーいたしまして」
チャラチャラしているように見えて彼は私よりもしっかりしている。
それが仕事にも表れている。宿敵だ、ライバルだと思っていたが(思っているのは私だけだけれど…)単純に椎名君は“いい人”なのだ。
「あ!私ここで降りるから」
電光掲示板に私の最寄り駅が表示される。お疲れ様、と言って腰を上げトートバックを肩に掛け急いで電車を降りた。
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