「復活と清算」

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(ヤバい事になってる予想はできていた。だが、これ程だったとは…)  俺こと“片目のガンタイ”は埃と懐かしい印刷物や塗料の匂い立ち込める古巣の2階でため息をつく。1回の倉庫兼会議室には、数十名の人間がひしめき、誰憚る事なく叫び声を上げている。皆それぞれが武装し、出撃待機中と言った所か… 「ひいふう…50、いや、それ以上?中隊規模じゃん?ヤッバイ。マジでヤバい…昔は15人しかいなかったのに…」 頭を抱える…コイツ等を止められるのは、自分、いや自分以外でも出来るのは明白… だが、やるのは自分だ。そうでなければいけない。この国では、使ってる人は恐らく少ない MP5SⅮ3短機関銃(消音装置内蔵式)の筒先をゆっくり目元まで持ち上げ、覚悟を決めた…   全てが変わったのは、あの事変からだ。旧冷戦に代わる新たな覇権争いを起こしたい 国同士が海上でお互い自慢の艦隊群の見せ合いっこのど真ん中に、艦隊搭乗員達の言葉を借りれば、 “フリフリ衣装の女の子達”が降りてきた。 後に“世界救済少女”と呼ばれる彼女達、魔法少女、変身ヒロイン群が行った介入は、ほんの数ヵ月で、世界を平定させる程の力を人々に見せつけた。 それに続かんとばかりに、世界中に溢れた様々なヒーロー達の活躍は、ここに記す必要はないだろう。ニューヨークには蜘蛛スーツのコスプレイヤー、海を行けば、何か軍船モチーフ装備のスイスイスケートしてる武装娘ETC、ETC… 勿論、俺が所属していた側の悪だって負けてない。独裁国家のバカ、古代の邪神を呼び出したバカ、怪人を作った組織バカ、テロリストバカ、異次元からのバカ、怪獣バカ、全部やられた。 では、自分はどうだったのか?と言うと、コイツ等と同じバカではない。ガキの頃に最底辺のPMC(傭兵)に売られ、大人の代用で地雷原を歩かされ(勿論、全員、踏ませなおしてやった)敵に捕まった時は、皮膚が裂ける程の鞭打ち&片目をえぐり出された(勿論、犯った奴全員の両眼はその日の内に空洞、蛆虫の住処)ガンタイ様の実戦経験は伊達ではない。 組織や仲間がやられる度に、姿や顔を変え、戦いの余波に巻き込まれた哀れな女、子供には存分に欲望をぶつけ(余談だが、片目、眼帯装着のスタイルは貫き続けた) 完全なる悪として、抵抗を続けてきた。 世界は平定されつつあったが、無理やり押し付けられた正義など、誰が納得するだろうか? 増悪は収まるどころか広がる一方… そういった匂いを嗅ぎつけ、集める事に、俺は非常に特化していた。目的は戦いを続けさせる事…一方的な抑圧程、生きにくい娑婆はない。 世界救済少女や、ヒーロー達に敵う存在を作る事は不可能だ。だが、常に不穏な存在を用意し、混乱を継続する社会、俺が生きやすい世のための組織が必要だった。 名前は“リリパッド”昔、薬莢だらけの路上に捨てられてた本に出てきた何かの名前だったと思う。メンバーは傭兵やテロリスト、怪人組織の下っ端だった奴等… それらを連中の根拠、現出地と言われる極東の島国で作り上げ、テロ活動を頻発させる。 警察が対応するような事案だが、武器や火力は対応不能なレベル… かと言って、正義の連中が対応するには大袈裟… だから、出動するかどうかを考えている最中に、こちらはやりたい事やって、尻尾を撒いてトンズラ…イタチごっこのゲリラ戦を繰り返す戦法… 部下達も練度と経験を重ね、戦いのノウハウを覚えていく。組織の副隊長格である“サキ”は、よく俺に懐いた。 「先輩(何故か、コイツは俺の事をそう呼んでいた)ウチ等の戦いは意味のある事なんすね? 自分のとーちゃん、確かに悪い仕事してました。でも、別に悪い事の中心じゃなくて、関わってただけ、荷下ろしですよ? それなのに、アイツ等、貨物船ごと吹っ飛ばした。アイツ等、許さない。絶対、復讐してやるっす」 憎しみと悲しみで青春を謳歌した少女の心を巧みに利用しながら、俺はリリパッドを強化し、抵抗を続けるつもりだった。いつまでも…だが、それを止めたのは…  「お前が、世界救済の女の子達の柔肌に惚れたからだろう?えっ?てか、覚悟を決めた ワリには、まだ躊躇してるの?ヤッベェって、早く飛び込まないと…」 こそこそ、しかし隣で、的確に痛い所をついてくる言葉途中の覆面男に (名前は忘れた“マスク”でいいや)銃の台尻を静かに叩き込む。 傭兵時代から正義連中の台頭まで、なんやかんやで戦闘してきた同胞だが、俺の経歴を知り過ぎている。言う事大体正解だから仕方ないと言っちゃ、仕方ないが… その日、俺ことガンタイはリリパッドの行った爆破テロで負傷した市民に扮し(金髪碧眼の外国人みたいな見た目は、少し異質だが、世界救済の奴等が現出以降、そんな感じの子達が巷に溢れている国だから問題あるまい) 現場から逃走するため、救急車に乗っていた。後は適当な所で降りるだけと思っていた所で、 不意に全身が浮かぶ感覚に襲われる。 当時、世界救済の連中に対し、抵抗を続けていたのはリリパッドだけではなかった。怪人組織の残党や宇宙の侵略者の生き残り、色んな奴が燻っていた。連携の誘いは確かにあった。 だが、奴等の目的は世界の掌握、中途半端で歪んだ俺の理想世界の趣旨に反する。 断る事は言うまでもなかった。その報復というか、他組織の行動に巻き込まれた形となった。 隠し持った自動拳銃を腰だめに、外へ飛び出した時には、蟹みたいな姿をした攻殻怪人が 市民のオッサンを2メートル程のデカさの腕バサミで挟んでいた。 「そこは幼女とか、美少女だろ?」 と叫ぶ俺が銃を出そうとした時、背中に柔らかい感覚を感じ、一気に空中へと舞い上がる。 「警察の方ですか?怪我までしてるのに…(言葉を詰まらせてる?何て純真)勇敢です。 でも、ここは私達に任せて。もう大丈夫…」 非常に良い匂いを発しつつ、喋る少女が俺の頭を抱え込み、その可憐な胸元に抱きしめる。 (現れた怪人は、飛来してきた他の少女達に瞬殺されていた) いやはや、全く…晴天の霹靂と言う言葉があるらしいが、この事だと思う。散々、ヒドイ事をやってきた自分を少しも疑わない無垢の天使、巷では圧倒的な力を行使する畏怖の対象と見られてきた彼女達だったが、 その実際はこうだ。ただ、純粋な、世の平和のために戦う、自分達より非力な存在の抵抗を 憐れむのではなく、涙する純粋な存在… 何より、悪事を繰り返し、弱き者を貪ってきた自分を慰め、癒してくれた。 その瞬間、その時から、俺の目的は変わった。 この少女達に少しでも会うために、自身の混沌とした世のためでなく、彼女達の敵を作り続ける事…それがリリパッドの存在理由となった。 俺は民間協力者を偽り、彼女達の私生活にまで入り込む程の関係を、正義の連中と 築いていく。サキや部下達は何の疑いを持たずに邁進してくれた。だが、その精力的な活動はいつしか、当初の、俺の目的である“丁度いい敵”を越えていってしまう。 結果として、リリパッドは、本格的な掃討戦の末に壊滅する。俺がその一報を聞いたのは、正義の連中の1人である少女(勿論、抱きしめてくれた子)のベットの… おっと、ここを詳細に記す意味はないだろう。私生活にまで、関わりを持った結果だ。 問題なのは、リリパッドのアジトに、俺の写真(サキが撮った奴)があった事… それを元に透視や念写の能力を持つ少女が俺の過去やリリパッドの黒幕である事を 突き止めるのは時間の問題だった。崩壊の匂いを嗅ぎつけるのは速い。少女の残り香を楽しみつつ、国外脱出を行い、半年が経過していた…  「誰かっ!?」 怒声に近い声に反応したマスクが消音装置付きの軽機関銃を連射する。なるべく殺すなと言いたい所だが、同時に足元を叩くように撃ち込まれる1階からの銃弾は、それが不可能だと告げている…  “復活”を聞いたのは“ミナ”の寝室だ。 逃亡先として選んだのは、悪側の残存勢力の溜まり場であるスラム街… 白い肌の彼女は、正義の少女達に敗けたが、ほぼ同様の能力を持つ“敗北少女”の1人… 俺はその肌の虜となり、淫らで怠惰な生活に堕ちていく自分に酔いしれながら、 時々、ミナに首筋を吸われたり、吸ったりしながら、生きていた(言い忘れたが、彼女の歯はとても鋭い) いつまでも、ノンビリ、だらだら肌を融け合わせていたいが、それだけでは暮らしていけない。生活の糧を探しに、数日ぶりに外へ出た帰り… 人を駄目にする事ご確約の甘ったるい香り漂う部屋の主であるミナがふくれっ面で ベットからこちらを見ていた。 どうしたの?と言う声は、彼女の目線途中に置かれたスマホで理解する。 「マスクって人から連絡アタ、ガンタイの創ったリリパッド?が蘇ッタ、また悪い事するつもりらしいデスヨ」 「えっ?リリパッド?ああ~、作ったな~?そんなン…いや、でもあれ、とっくのとうに壊滅しててね?俺、関係ないかなぁ~って」 「この人、誰デスカ?」 怒りの原因はマスクが添付した、サキの写真のようだ。人懐っこい少女の顔を卒業し、いっぱしの女戦士らしい風貌になっている。 「ああ~、この子ね?元部下で…色々教育してあげたの。戦い方とかね?そっか、まだ生きてたかぁー、いや、ホント、もう関係ないからね」 「チュートハンパ良くないデス。マスクさん困ってるミタイデス。キッチリ、清算シテきてクダサーイ」 「清算って、不味いよ。あの国戻ったら、俺、魔法少女ちゃん達に殺されちゃうよ?彼女達の敵だったからね。俺…」 「ホントウに?」 ミナの赤い目の黒味が細くなっていく。マスクの野郎、何処まで喋った?…両手にはジットリ汗が滲み始めている。 「まぁまぁ、いいじゃん!とにかくさ、あのさ!ハグしよ。ハグハグ、それで仲直り~」 誤魔化し交じりにおどけて近づく俺に対し、雪のような裸身をシーツでくるんで、そっぽを向くミナ。解決までハグハグはお預け=俺の生きる糧がなくなる。これで全てが決まった… まだ島国に留まっていたマスク達、悪の残党勢力の平穏を支援する意味で協力を取り付けた俺は、かつての過去を清算するような形で、現在、元部下達に銃弾を撃ち込まれまくっている。 「おい、ガンタイ!流石に、これはヤバくねぇか?」 「問題ねぇ、撃たせ続けろ!これだけの音と騒音、あの子達が気づかない筈はねぇ」 MP5を下方に向けてばら撒く俺の耳は、嫌な駆動音を捉える。魔法少女が空を飛ぶ昨今でも、この国では聞けない音、共産圏が攻めてくる以外では… 「おい、ヤバいぞ。あの音はT-62(重戦車)だ。ガキん時にボスニアで聞いた。 何だってこんな所に…」 「そーいやっ、仲間内でレストアした中古戦車を小樽の港で下ろしたとか…」 “はよ、言えやっ”なんて怒声は砲声に遮られた。 崩落する二階から飛び降りた俺の頭は、62戦車のハッチに激突… 好機とばかりに車載搭載機銃PKMTに取り付き、倉庫内にたむろする、新リリパッドの 隊員達に撃ちまくる。 右往左往する相手は、同時に降り立ったマスクが開けた、倉庫の裏口から、退散していく。装填された100発の弾帯を撃ち切る頃、敵の残りはサキ1人だけになっていた。 銃を構えた彼女が、ふっと表情をやわらげ、静かに武器を下ろす。 「おかえりなさい。先輩、先輩なら絶対に来ると思ってました。わかりますか? 私がリリパッドを復活させた訳…それは先輩のふっ」 みなまで言わせず、笑顔の元部下を押し倒し、自身の膝の上に載せると、有無も言わせず、形の良いお尻に張り手をかます。 「てめぇっ、ばっかやろー!そんな理由で復活してんじゃねぇっ!他の残党の事も考えろ!お前がそんなんだから、ミナの白い肌が、あの細い首ねっこがお預けナッシンだぞ?この野郎ー(後半、自分の私利私欲入ってね?と言うマスクの声は一切無視)」 「すいません、先輩、すいませんっすー!自分、先輩に会いたかったっす」 何処か嬉しそうな声のサキに怒りが急上昇。こうなったら、お預け喰らったミナの分までと、奮起する時点で気づくべきだった。しきりに三文字の言葉“に・げ・ろ”を連呼していた マスクの姿が、いつの間にか、見えなくなっていた事を… 「私達も会いたかったよ?ガンタイ」 不意に聞こえた背後からの甘い声と柔らかい感触、これには覚えがある。逃げるタイミングを完全に逸した。どうやら正義の戦いに身を投じる事で、忘れさせていた俺の裏切りを 少女達に復活させてしまったらしい。 言い訳を考える頭は可憐だが、何処かしっかりとした腕と胸に抱え込まれる。続いて響く声に、俺は冷水をかけられたようにゾッとする。 「おかえり、もう…大丈夫だよ?」 “もう…”の後の妙な間は一体何だろう?とは、聞けないが、聞きたい。そんな妙な感情に何処か懐かしさと恐怖を並行させた俺は、とりあえず、少女の芳香を楽しむため、 ゆっくりと目を閉じた…(終)
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