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こいつは
いったい。
耳障りな咀嚼、いびき、ゲップ…きりがない
無限の音源を持っている事に気付いた。
忘れ物で1日が始まり
「あれっ、どこにあるっけ?
やばい、間に合わない。あれ知らない?」
「あれって何よ」
「あれよ」
「帰りに買ってきてくれた?」
「何のこと?」
「…」
物忘れでその日を終える。
「彼」の時には抱かなかった気持ち、初々しい時には使わなかった言葉がとめどなく出てきて私が私じゃなくなっている。
慣れは怖い。
確実に愛情というぬるま湯にふやけている。
恋がしたい恋がしたい恋がしたい。
<<金曜日夜の何気ない一幕>>
「赤い服。買ってたよね。あれに合うと思って」工房で造られたガラス細工のイヤリング。
こいつ...やりやがる。
太刀打ちできないセンス。
手軽に仕入れる事の出来ない一品。
探した?たまたま?
無銘ながら確かなクオリティ商品、欲しい物は手間をかけても手に入れてくる。
侮れない美的意識に驚愕していたあの頃を思い出す。
「覚えてくれてたの?」
「かわいい服だったからな」
私が選んで買った服を彼に褒められるすなわち私を肯定いわゆる承認欲求を満たされる。
圧倒的にかっこよかった彼も歳をとった。
センスを纏って煌びやかだった20代の頃は刺激が強過ぎて緊張に押しつぶされそうだった。
穏やかでぐうたらな40代は安心と不満を行き来している気がする。
「ちょっと貸して、つけてあげる」
油断した頃に鋭利な才能でかっきられる。
....か い か ん........
こいつが
だんな
なんだ
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