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「篠崎先生、泣くなよ。」
六郎が言い、篠崎が
「ずまんっ!」
と謝る。
細川の妻の顔が引き締まり、枕元へとやってくる。
「あなた。」
「うん。」
「痛むの?」
「いや。清くんが和らげてくれているから、心地良いくらいだ。」
清は黙って、細川の手を握り続けている。
「私たちは、柴田家の皆様に助けられてばかりね。」
細川の妻が苦笑する。マスが慌てて口を挟んだ。
「私は細川さんに命を助けられました。」
「でも・・・。」
細川の妻が小首をかしげて何かを考える。
「悪漢たちは、マスさんの不思議な力で倒されたのでしょう?うちの人が助けたと言うのは、なんだかおこがましい気が・・・。」
「おいおいおいおい・・・。」
細川が情けない声を出し、マスも慌てる。
「たったお一人で、三人の男と戦ってくださいました!その前には、三階からぶら下がって窓ガラスを蹴破り、部屋に飛び込んでいらして。それはそれは、勇ましく!」
「そうだ!そうだ!」
細川がマスを加勢するが、妻は小首をかしげたままだ。
「驚き騒ぐ敵に、『細川だ』と名乗られた時は、本当にどこかの大将と見まごうほど、気高いお姿でした。」
「細川だっ!」
細川が、すぐに再現して見せるが、それを妻はシラッと眺める。
「名乗る必要ありましたか?」
「相手が聞いてきたんだよ。『お前、なんだ!?』と。」
「聞かれるがままに答えたの?」
「先生方に聞かれると、ついなぁ。事務員のサガかなぁ。」
細川の間抜け顔を見つめて、妻が微笑む。
「なんだか締まらないわねぇ。」
「そうだなぁ。」
「でも、立派でしたねぇ。」
「そうだろう?」
「はい。誇りに思いますよ。」
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