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龍の笑い声が聞こえ、皆の顔が穏やかに和らぐ。
「いい日だなぁ。」
細川が言い、目をつぶった。
清は、腕に力を入れて、細川の上体をさらに自分の体に密着させる。
少しでも多く。少しでも長く。
一心に願っていると、細川がふっと目を開ける。
「清くん。幸せになれよ。」
黙って細川の顔を見下ろすと、優しく、深い目で見上げられた。
「家にいたって、外に出たって、なんだっていい。心穏やかに、満足して生きていけ。」
細川が六郎とマスを見る。
「六郎とマスさんもだ。力なんて、世のため人のために役立てなくたっていいんだ。この先、一生使わなくてもいい。自分たちの幸せのために生きろよ。」
三者三様の力を持つ親子が、じっと細川を見つめる。
「誰かを救うことに夢中になって、自分の命を粗末にするな。」
細川が微笑む。清の脳裏に、正一の言葉が蘇った。
『清、僕のために生きてくれ。』
「生きてこそ、だ。まずは自分の命と幸福を守れ。それが、救える者の使命だと思うよ。」
清が腕に力を込めて、ぎゆっと細川を抱き締める。
「うげ…清くん、苦しいよ。」
「苦しいです。」
「いや、俺が苦しい…。」
清の腕をぱたぱたと叩く細川の肩に、清が顔を埋め泣き始める。
「時間稼ぎしかできない。兄さんも、細川さんも助けられない。私は役立たずです。」
「清くん・・・死ぬ。」
細川の声にはっとして顔を上げ、泣いたまま、慌てて腕の力を緩める。
「も、申し訳ありません。」
鼻をすすり上げながら謝る清の頭に、細川がぽんぽんと触れた。
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