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「その晩、細川さんは亡くなりました。」
清が静かな声で言った。
「穏やかな最期だった。清くんのお陰だ。」
篠崎が言い、野原も頷く。滝が当時を思い出したのか、目尻をそっと拭っている。
清が寂しそうな表情になる。
「拉致の主犯の男が、処置室を抜け出して、公道で狼だ魔女だと喚いたせいで、隠そうとしていた事件に世間の目が向いてしまいました。」
「狐め。」
篠崎が言い、畔田と小山内も忌々しそうに頷く。
「細川家を世間の目から守るため、細川さんが現場にいたことは伏せられました。」
「犯人たちが黙っていなかったのでは?」
陸が尋ねると、清が決まり悪そうに笑う。
「少し、脅しをかけました。」
「脅し?」
「夜中、彼らが眠っている処置室に行って、
『これ以上あの日のことを話せば、恐ろしいことになる。』
と呟いて帰ってきました。」
「恐ろしいこととは?」
「分かりません。それらしく言ってみただけです。」
畔田が笑いだす。
「篠崎先生が、ランプで清様の瞳や髪をチラチラ照らして、怪しく光らせる演出をしておられましたな。」
「名案だったろう。」
「清様は迷惑そうな顔をされてました。」
小山内も笑いながら言う。
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