覚悟

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 事件のあと、世間が騒ぎ、研究所では近隣住民に向けた説明会が開かれた。研究所内ではまかり通った建前も、狐男を知らない住民には通用しなかった。  噂が噂を呼び、六郎や清のことと思われる話も飛び交うようになった。  柴田家では、皆がマスの身と心を案じた。欲に目が眩んだ者たちの手、魔女などという心ない虚言、それらからマスを守る術はないかと、額を寄せ合って思案した。  解決策を出してくれたのは野原だった。自身が留学中に世話になったドイツの知人のもとに、しばらくマスを預けてはどうだと言うのだ。  もともと学問を志し、野原の元で学ぼうとしていたマスは、ドイツ語も多少学んでいる。好奇心も旺盛だから、日本を飛び出すことに恐れは感じないようだった。  けれど、一人だけ逃げ出すようで後ろめたく、なかなか行くと言い出せない様子だった。  そんなマスに、フジが言った。 「細川さんのお言葉を思い出して。まずは自分の幸せを。」  皆もマスの背中を押し、彼女はドイツへと旅立った。
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