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それからは早かった。
世話をしてくれたドイツ人一家の息子と恋仲になり、結婚。2年後には女の子を生んだ。
エマと名付けられたその子は、日本人との混血のため、度々、心ない言葉や態度に晒された。
けれど、その度にマスは細川の言葉をエマに伝えた。
「真実だけを見なさい。」
後にエマは、その教えを子へ、孫へ、曾孫へと伝えていく。
六郎、マス、清のことも聞いていたが、エマ自身には不思議な力は宿らず、子や孫も同様だった。不用意に子どもに教え、うっかり外で話してしまうと、また母の身を危険に晒すのではとの心配もあり、必要のない限り、この話は下の代には伝えまいと、決心した。
日本では、マスがエマを生んだ頃も、まだ柴田家を噂と好奇の目が取り囲んでいた。
ただ、家の中は相変わらず平穏で、外に出ない清は、以前と変わらず、淡々と日々を過ごしていた。
二十歳を迎えた時、清が六郎に家督を譲ってほしいと申し出た。そして、六郎とフジには、ドイツの姉の元に行くよう勧めた。
両親が孫に会いたがっているのは知っていたし、耳障りな噂の中で老後を過ごすのは気の毒だと思ったのだ。
六郎は清に、それならば一緒に行こうと言った。使用人には他の働き口を世話し、家は引き払えばいいと。
けれど清は首を横に振った。
「柴田家が引き払えば、人の好奇心は次の的を探しだします。それが、細川家に向いてしまうことだけは避けたいのです。」
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