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六郎とフジは、清を連れて、細川の妻と娘に会いに行った。
当主の交代と、ドイツ行きの報告のためだった。彼女らは、
「清さんがお困りの際には駆けつけます。」
と言い、六郎とフジは喜んだ。けれど清は
「私には近づかないでください。悪い噂は私一人で請け負います。」
と頭を下げて帰っていった。
細川の妻と娘は、なぜ、清が一人で日本に残るのかを理解した。若い青年のいじらしい想いに胸が熱くなる。
「清にとっては、それが幸せなようです。」
歩いていく清の背中を見ながら、フジが言う。
「子どものころから、重いものを背負わせ、窮屈な生活を強いてきてしまいました。けれど、文句も言わず、それどころか、自分には何ができるのかと、黙々と考えていたようです。」
細川の妻が涙ぐみ、フジが苦笑する。
「可哀想なように見えますが、あの子は、これが自分の望みなのだと言うのです。だから、あの子の言葉を信じて、置いていきます。」
フジが深々と頭を下げる。
「あの子のためにも、皆様、どうかお幸せに。」
細川の妻が、フジの手を握る。
「お二人も。清様のことは、私どもが支えます。」
フジの目から涙が零れ、その後ろで、六郎も鼻をすすり上げた。
「清のことを、よろしく、どうぞよろしくお願いします。」
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