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お目当てのパンを買って教室に戻ってくると、
「それはちょっと、考えすぎじゃないかなぁ」
沙羅が毎朝自分で作ってくるお弁当を突きながら言ってくれた。
「この間も迎えに来てくれたけど、玉村さんにそんな雰囲気はなかったよ」
沙羅も玉村のことはよく知っている。
ツボミ、優子、沙羅はお互いの家庭環境も知る親友同士だ。
でもそんな沙羅に優子は艶然と微笑みながら、
「沙羅もそういうことにはニブイからねぇ」
「ニブいって、ちょっとそれどういう意味よ」
「だって、男がストーカーになるまで、沙羅は気づかなかったじゃない」
「……」
「そういう男が現れないように、送迎をかって出て牽制してるのかもしれないわ」
言い返す言葉をなくし、沙羅はグッと口を閉じる。
かつて、沙羅のバイト先の客がストーカーと化して、優子やツボミに心配をかけた記憶も生々しい。
沙羅を黙らせて気をよくしたのか優子は、
「ツボミってば、なんでそんな困った顔してんのよ。あんなお金もあって何でもいうこと聞いてくれる男、そうそう他にいないわよ」
「えっ、そんなに買ってもらってるのツボミ」
沙羅が驚いて聞けば、ツボミは決まり悪くなってヴィヴィアン・ウエストウッドの腕時計を机の下に隠した。
「……まぁ、買ってくれるよ、最近は特に、な」
「それって本気って証拠じゃないの。いよいよ玉村さんも本腰いれてツボミのこと狙いだしたんだわ」
確信めいたように言う優子に、ツボミは左腕の腕時計をそっと見下ろす。
「玉村のオジサンは、オジサンなんだよなぁ」
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