24人が本棚に入れています
本棚に追加
デート
「――ボミ。ツボミ」
名を呼ぶ声にハッと我に返った。
顔をあげると、
「どうしたの。タヌキがびっくりしたような顔して」
「……どんな顔だよ、それ」
いつものツボミならキレるような暴言だが、相手が玉村だと何も言えない。
玉村はツボミのヒステリーなど慣れていて、柳に風と受け流してしまうから、怒ってもしょうがないと諦めがついている。
それに今夜のツボミは、優子に言われたことが、どうしても頭に残っている。
『それって本気だからよ。いよいよ玉村さんも本腰いれて狙いだしたんだわ』
ツボミは、頭を振って優子の声を追い出し、
「いや……、こんな店初めてで、ちょっと緊張しちゃってんのかな」
玉村が連れて来てくれたレストランは、ビルの36階。
窓から見える夜景もすばらしく、落ち着いたモノトーンの内装の中では、ジャズが低くかかっている。
周りはツボミのような高校生の姿はなく、着飾った大人の客ばかりだ。
ものすごく、場違いな感じがする。
「あのさ……」
ツボミは恐る恐る玉村の顔を伺う。
「こーいう店ってさ、普通、奥さん――、あ、彼女と来るもんじゃないのか」
つい出た失言だが、玉村は眉をあげただけで何も言わなかった。
そして玉村に不快な思いをさせてでも聞いてみたかったのは、本当に優子が言うように、玉村は自分のことを『女』として見ているのか……。
最初のコメントを投稿しよう!