デート

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デート

「――ボミ。ツボミ」 名を呼ぶ声にハッと我に返った。 顔をあげると、 「どうしたの。タヌキがびっくりしたような顔して」 「……どんな顔だよ、それ」 いつものツボミならキレるような暴言だが、相手が玉村だと何も言えない。 玉村はツボミのヒステリーなど慣れていて、柳に風と受け流してしまうから、怒ってもしょうがないと諦めがついている。 それに今夜のツボミは、優子に言われたことが、どうしても頭に残っている。 『それって本気だからよ。いよいよ玉村さんも本腰いれて狙いだしたんだわ』 ツボミは、頭を振って優子の声を追い出し、 「いや……、こんな店初めてで、ちょっと緊張しちゃってんのかな」 玉村が連れて来てくれたレストランは、ビルの36階。 窓から見える夜景もすばらしく、落ち着いたモノトーンの内装の中では、ジャズが低くかかっている。 周りはツボミのような高校生の姿はなく、着飾った大人の客ばかりだ。 ものすごく、場違いな感じがする。 「あのさ……」 ツボミは恐る恐る玉村の顔を伺う。 「こーいう店ってさ、普通、奥さん――、あ、彼女と来るもんじゃないのか」 つい出た失言だが、玉村は眉をあげただけで何も言わなかった。 そして玉村に不快な思いをさせてでも聞いてみたかったのは、本当に優子が言うように、玉村は自分のことを『女』として見ているのか……。
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