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「朝シャワーを浴びたんだろ? この姿勢のままじっとしててくれるだけでいい。痛いかもしないが、ちょっとだけ我慢してくれ。10分で終わる。いや、5分で何とかするから」
Mの字に開かれた真ん中に「頼むよ」と両手を合わせた。神社でするように。そう、そこには僕の神がいる。僕はその瞬間目をきつく閉じたのだと思う。人は一途に願う時、目を強くつむるものだから。
「絶対イヤッ!」
激痛が鼻を襲った。油断していた隙に、足蹴にされたのだ。後ろに転がった勢いで洋服ダンスに頭をぶつけ、大きな音が出た。Tシャツの胸が鼻血で染まっている。
M字の神様からの天罰だ。
「イッテー……」
右手を後頭部、左手で折れたかもしれない鼻を押さえ、恨みがましい視線を上げる。
痛みで霞む視界に、セーラー服が見えた。カーテンレールに掛かった紺色の冬服だ。ビニールがかかっているからクリーニング屋から引き取って来たばかりなのだろう。僕が書道の時間にあやまってつけてしまった墨は結局落ちなかったようだ。右の袖口の白ラインに墨のシミがのこっている。
――そうか……。僕は加奈子に迷惑ばかりかけてるもんなあ……。どんなに強がっても、子供だと思われているのかもしれない。
視線を落とすと、ベッドの上にテディベアが2匹仲良く座っている。オレンジ色のちっちゃなクマちゃんと、真白の大きなクマちゃん。
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