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ショックだった。加奈子が卒業式に出席しなかった理由ってそれだったのか。幸いなことに酒の酔いがクッションになって、衝撃を和らげてくれていた。この世に酒があってよかった。酒がなかったら春澤さんの部屋の窓を開けて飛び降りていたかもしれない。
加奈子を奪って行った春澤さんが憎くなかったといえばうそになる。だが、自分の変態ぶりをカミングアウトしてくれたのは友情の証だろうと思った。だから、僕も自分の心の傷を彼にさらけ出そうと思った。
加奈子と付き合い、別れた話をした。
もちろん名前は出さずにだ。春澤さんに悟られないように部分的にストーリーを変えて。話しながら泣いた。
「好きだったのになあ……。愛していたのになあ……」
春澤さんに当てつけるように僕はテーブルにうつ伏して泣きじゃくった。
泣きながら酒をあおるように飲んだ。二人ともひどく酔っぱらっていたから、春澤さんも覚えてないんじゃないかと思う。
翌朝、寮の自分の部屋で目が覚めた。土曜日だから授業はない。ルームメイトの気持ちよさそうな寝息が上段から降って来る。
ふと見ると、机に見慣れないものが置いてある。ズキズキするこめかみを押さえながら布団から這い出し机に歩み寄る。
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