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8.芸術品
加奈子は僕と初セックスする前から春澤さんにヘアを抜かれて続けていたんだ。ということは、処女の性器は彼に見られていたんだ。触られていたんだ。僕らのはじめてからほとんど時間を置かず彼女の性感が開花したのも、春澤さんから愛撫を受けていたからではなかったか。
ヘアを抜かれることについては加奈子本人どう思っていたのだろうか。恥ずかしくても痛くても、春澤さんのために我慢したのだろうか。あるいは抜かれることに被虐的な喜びを感じていたのだろうか。
僕の胸には多くの疑念が渦を巻き、複雑に絡み合っていた。
五月の連休。
寮生は留学生を残して大部分帰省した。僕も春澤さんも地元に帰った。
春澤さんと加奈子はマンションの三階と五階に住んでいる。ふたりはおそらくデートをするだろう。
それが許せなかった。
加奈子に嫌われてしまったのだから僕には彼女を独占する権利などないのだが、それでも僕を落ち着かなくさせているのは、加奈子が僕とつきあう前にも、別れた後も、春澤さんとつきあっているという事実だった。僕が加奈子の狭い入り口を広げてやったからこそ春澤さんが挿入できたのだとしたら、僕は知らず知らずのうちにふたりの結合を援助していたことになる。
それじゃ、ピエロじゃないか。
「加奈子、オレだけど…」
「え、だれ? あ、成沢君?」
5月1日の土曜日、僕は午後3時ごろ電話をかけた。僕の声がまだ忘れられていなかったのは幸いだ。
「オマエとじっくり話したいことがあってさあ。いま、どこ?」
「うーん、ちょっと出先なんだけど……。お友達ンとこ」
今僕は帰省し自分の部屋にいる。カーテンが閉めっきりだから薄暗い。
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