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机の上のパソコンモニターが加奈子の部屋を映している。
いつもきちんと整頓されている机の上にコーヒーカップが二つと菓子の包装紙のようなものが丸めて放り出されている。机の前にあるはずの椅子の位置がずれ、背もたれにグレーのダンガリーシャツがかかっている。男物だ。加奈子の姿は見えない。ベランダの掃き出し窓はぴったりしまっている。
「連休中に会えないかなあと思って…」
「あ…、たぶん難しいと思う。うちにほとんどいないし…」
とってつけたように抑揚豊かに話すのは、話したくない相手と話すときの彼女の癖だ。
「そっか、ムリか……。じゃ、しょうがないなあ」
残念そうに言ってから、あ、そうそう、とたった今思い出したように続ける。
「大学であの人に会ったよ。ほら、大門寺のサッカー部の──春澤さん」
「ああ……」
加奈子の声が詰まる。同時にモニターの映像が上下に揺れた。ベッドの上で動きのあった証拠だ。
「加奈子も覚えてるだろ? 処女のアンダーヘアでお守り作ったって噂の」
「ああ、あの人……」
もう一度画面が大きく揺れ、左の隅からスマホを耳に当てた加奈子の姿が現れる。もう一方の手で髪の毛をかき上げる彼女は上半身裸だった。なつかしい乳房がほんのり赤く染まっている。画面では確認できないが、おそらく下半身も裸だろう。そしてベッドの上には春澤さんが裸で寝そべっているはず。余震のように続いている映像の揺れは春澤さんの身体の動きを反映していると考えてよさそうだ。
「お陰でさあ、オマエも抜かれちゃったよな、あはは……」
「あー、あの、そういう話はもう……」
「うん、わかった、わかった、ごめん。ほら、オレ、加奈子のことまだ好きでさあ、連休中に一度デートしてもらいたいと思っただけだから。ダメならいいんだ。じゃ」
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