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2.弾除けお守り
「おい、みんな、お守り持ってここに集まれ!」
試合後、控室に山垣部長の重々しい声が轟いた。筋肉質の腕を胸の前に組み、眉間にしわを寄せている。機嫌が悪そうだ。
スタメンとして試合を戦った選手も、ベンチに控えていた選手も緊張に表情を硬くして、中央に三つ並べて置かれた会議用簡易テーブルの周りに集まりだした。部員たちの表情も陰鬱だ。理由はただ一つ。霊験あらたかなお守りで絶対勝つと踏んでいた相手に、完膚なきまでにやっつけられたのだ。
ある部員たちはジャージのポケットから、別の部員は首にぶら下げたビニールケースから、またある部員は汗で濡れたパンツの中からお守りを取り出しテーブルの上に並べた。
こもっていた男の匂いが一層濃くなった。
マネージャーの加奈子も控室に入って来た。が、机の上に並べられたお守りを見るなり顔を引きつらせた。とっさに目が合った彼女には強い視線で二、三度うなずいて見せた。約束は絶対守るからと強い念力を込めて。
おい、成沢、と部長は僕を呼ぶ。
「これ、ホンモノなんだろうなあ?」
部長が武骨な指にはさんでひらひらと振ったパラフィン袋から、長さ3センチぐらいの縮れた毛が透けて見える。それは誰が見てもまごうことなき陰毛だった。外来語でアンダーヘアと言った方が少しは体裁がいいだろうか。どの袋にも1本ずつ入っている。キーパーには部長の特別な計らいで3本入っている。特別太くて縮れているやつが。
「もちろん本物です!」
僕の声は緊張で震えていた。ちらっと後ろに視線を向けると加奈子の怯えきった視線にぶつかった。
山垣部長は僕をにらみつけ野太い声を投げつけてくる。
「女のアソコの毛――それで間違いないんだなあ!」
「はい、まちがいありません、女の毛です!」
虫の鳴くような声を漏らすと、部長は、みんなも確かめてみろと、パラフィン袋の中身を出させた。
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