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部屋の片隅で加奈子がはっと息を吸いこみ、両手を合わせ唇に当てた。何者かに追い詰められたように、壁際のロッカーに背中を押しつけ、短パンから露出している長い脚が細かく震えているのが見える。僕はもう一度目をこらして、大丈夫だから、とサインを送った。
「おい、高山。オマエのオンナのと比べてどうだ?」
部長はサッカー部唯一のイケメン、高山さんに問いかける。
「オレのオンナ、下の毛が薄いんですよね。綿毛みたいにポヤポヤと生えているだけなんですよ。それに比べるとこの毛はゴワゴワして、縮れ具合もなかなかのものですね」
男のモノかもしれないですね、と続けた高山先輩がオレを見て、ニヤッとほくそ笑んだ。この先輩は部長のイエスマンでもある。
「オレのオンナのはこんなもんですよ」キーパーの伊藤先輩が三本ある加奈子の陰毛一本一本を指で伸ばしながら言った。「でも、こっちの方がゴワゴワして立派かなあ……」
伊藤先輩は鼻をくっつけ匂いを嗅いでいる。
「なんだよ、精子の匂いがするぜ……。部長、この女、毛抜かれる前日に男とやってますよ。精液の臭い間違いないっすよ」
加奈子が口元に手を当て嘔吐きだした。背中をさすってやりたい気持は山々だが、それもできない。
「毛根からの長さは女のであってるかなって感じだけど、男のも長くなる前は短かったはずだから…」と知ったかぶりの一年生が隅から口を挟んだ。
しばらく陰毛に対する論評が続いた。その間加奈子はロッカーに追い詰められた姿勢を崩すことなく目を白黒させている。
「おい、田所!」
「は、は、はい!」
突然部長に振られて加奈子は素っ頓狂な声を上げどもった。
「オマエ、女だからわかるだろう。これオンナの毛だと思うか?」
目の前に自分の陰毛を突きつけられ、加奈子は今にも気を失いそうだ。
「おい、山垣、それはセクハラだって…」
助け舟を出したのは三年生の船越キャプテンだ。サッカー部唯一の理性派。部長は、そうだよな、悪かった、と決まり悪い顔をした。
「おい、成沢!」
僕は、はい、と再度直立不動の姿勢にもどった。
「だれの毛か、訊いてもいいか」
ちょうど部長の真後ろにいる加奈子は視線で首を振る。
――ばか!
部長には見えなくても、お前の様子、ほかの部員からは丸見えなんだよ。ほら、勘の鋭い榊原と佐藤はもう気づいている。オレとオマエを見比べているじゃないか……。ばれたらオマエ、恥ずかしくてマネージャーなんかやっていられなくなる。それに、抜け駆け防止条例があるサッカー部で僕とオマエの付き合いが発覚すれば僕だってサッカー部にいれなくなるんだぞ。
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