2.弾除けお守り

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「いや、それは言えません。最近仲良くしてるオンナに頼み込んだんです。名前は絶対言わないと約束しました。男の約束です。口が裂けても言えません」  何度も家で練習し、何度も頭の中で反復したセリフがスラスラと唇から流れ出た。えらいぞ、よくやった! 僕は胸の中で自分をほめちぎった。 「そうか……」  部長の長いため息。  オレは部長に言ってやりたかった。勝ちたいのなら実力で勝とうぜ、と。女の陰毛で験を担ぐなんて愚の骨頂だ、と。こんな部長だから俺たちは勝てないんだ、とも。 「で、そのオンナ、処女なのか?」  そう突かれて僕はたじろいだ。何も言い返せなかった。 「オレは処女のヘアを集めて来いって言ったよな? 経験のない女の毛だからこそ戦時中はタマ除けと信じられてきたんだ」  加奈子が処女だったのは、去年のクリスマスイブまでだ。数日前それを採集した時点ではとっくに処女ではなくなっていた。  ちなみに、クリスマスイブのは完全なるにはならなかった。加奈子はとても狭く、かたく、乾いていて、おまけにあまりの激痛のため泣きじゃくっていたから、入り口にほんのちょっと先っぽを食い込ませただけで引き返すことになったのだった。だが翌日のクリスマスはリベンジに成功したことを言い添えておかなければなるまい。薬局で購入してきたゼリーのお陰だと思っている。何とか全身を沈めることができた。その一部始終をオレンジ色の小さいクマちゃんが見守っていた。  そう、クマちゃんは僕たちのプライベートを一部始終ご存じだ。 「いや、処女かどうかなんて訊けませんでした。その子のプライベートだから」  僕は気分を害したふりをして脱いだシャツを丸めてカバンに突っ込んだ。それを機にほかの部員も机の周りから離れて帰り支度を始めた。テーブルのあちこちに散った陰毛は僕が手で集めた。二人だけになってから加奈子に返そうと思ったが、プンとそっぽを向かれ、しょうがなくトイレの便器に流すことにした。  渦を巻いて流されていく陰毛に僕の未来が見えているような気がして気が塞がった。  来週は敗者復活戦がある。なんとか一勝だけでも挙げたい。  どこかに処女の毛を提供してくれる女の子はいないだろうか。
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