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四章
――梅園の東屋で腰を下ろし、男と共に茶をたしなむ。
ほのかに梅花の香りが漂って、いる空間には、なんともいえない柔らかな時が流れている。
特に約束を交わしたわけではなかった。だが、男が待っていてくれているような気がして、リヨンは、また今日も足を運んだのであった。
もちろん、紅色の上着を纏っている。似合っていると言ってもらえた左衽の上着を。
リヨンの頬も、同様に紅色に染まっていた。
「本当に、よくお似合いだ……」
誉められて、リヨンは、その端麗な顔を見る。
今日で祭りは終わる。
男の細面には、もう、今までの様に、自由に外へ出る訳には行かないと言いたげに曇り、憂いがあふれ出していた。
やはり、男は、大きな屋敷に住む身なのだろう。
そうならば、何かとしがらみが多く、女のリヨン以上に外出が困難のなる。
男が生み出す、苦悩に飲み込まれてか、リヨンはつい体をゆだねてしまった。
たちまちに、清らかな白い上着がリヨンを包み込んだ。
火照る頬を受け止めた上着の感触は、驚くほど柔らかであった。
そして……、男の囁きが降り注いでくる。
「ずっと、側にいて欲しいのです」と――。
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