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五章
血相を変えた男達が、霊廟の敷地を叫びながら駆けていく。
その中に、泣き崩れるリヨンの父親の姿があった。
祭りの日、出かけたきり行方知れずになった娘が見つかった。知らせを聞いて安堵したが、それも長くは続かなかった。娘、リヨンは息絶えていたのである。
四方八方手を尽くして捜したのに、どうして、霊廟の梅園などで見つかったのたのか。古木に取りすがるように倒れていたという。
纏う衣に乱れはなく、人の手にかかった訳ではなさそうで、もちろん、これといった持病もない。
結局、死因がわからずのまま、リヨンは野辺の送りを受けたのであった。
──さて、紅い上着をどうしよう。
やはり、棺に納めれば良かったと、両親は息をついた。
これほどふんだんに金糸を使った衣は珍しいと思いとっておいたのがあだになった。
その鮮やかさが、リヨンの幻影を見るようで、心苦しくなったのである。
燃してしまおうと思ったが、娘が最後に着ていたものだと思うと気が引けた。
父親は上着を古着屋へ持って行こうと思いつく。
しかし、近所の店では、要らぬ噂になってしまうだろう。どこか適当な所はないかと、彷徨っていると、間口の狭い上品な佇まいの店が目に留まった。
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