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「あっちへ、行きましょう……」
物欲しそうな視線が、不快だった。
娘たち同様、男たちも出会いを求め、未来の花嫁を探しに来ている
。たむろして、娘たちを品定めするのが常であった。
「ねぇ、リヨン!」
友は引き止める。しかし、リヨンは、そういう事に、興味がなかった。
自分には、まだ早いと思っていたからだ。屋台を覗くごとで、その場を離れ、雑踏へ踏み込んで行く。
ところが、そのまま人の波に飲まれてしまい、リヨンの体は、前へ前へ、押し出されてしまった。
見えるのは見知らぬ人々の頭だけで、友の気配どころか、ざわざわとした人の話し声に包まれたまま、進むしかなかった。
体の自由が利かない。どこまで進まなければならないのだろう。
リヨンが不安になったその時、やっと視界が開かれた。
一面、梅が咲き乱れている。どうやら隣りの梅園に、迷い込んでしまったようだ。
ずいぶんとっぴな所に来てしまったと、リヨンは途方にくれた。
友とも、はぐれてしまい、さて、どうしようかと惑うリヨンの鼻を、ふわりとかぐわしい梅花の香りがくすぐった。
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