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何か動いた。そんな気がした。
リヨンは目を凝らす。
よくよく見ると、先の古木に、梅の花の色と同じ、白い上着を纏った男が立っていた。
どうすればよいのだろう。
「連れと、はぐれてしまった……ようで……」
リヨンの口が動いていた。
(いけない!見知らぬ男に、一人きりと知らせてしまった。少し軽はずみだった。もしも、男が素性のよからぬ者だったら……。)
リヨンの中にいやな予感が走った。
「ああ。では動かない方がよろしいでしょう。ここでじっとしていれば会えますよ。実は、私も人を待っているのです……」
流れてきた男の声は実に柔らかで、さらに、男も連れとはぐれたようであった。
散れじれになってしまった場合、双方が動いては、迷い続けるだけ。片方がじっとしている方が断然出会いやすくなる。
こんな誰も来ないところで、たたずんでいるということは、言葉通りで、悪さしよう、ではないだろう。
「お似合いですね」
「え?」
「左衽の上着」
男の言葉にリヨンは息が詰まりそうになった。
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