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行く先々で、上着を褒めてもらってはいたが、皆その鮮やかな色彩を讃えるだけで、誰も古風な形にまでは触れなかった。
つまりは、そこまで気がついていない、うわべだけの賞賛であったのだ。
男は上着を優しく眺め、上手に着こなしていると言う。
懐かしそうに目を細められ、リヨンはどうしたことか体が固くなった。
「リヨン!」
耳慣れた声が聞こえた。友の声である。
張られていた糸が切れたかのように、リヨンの体はふっと軽くなる。
「リヨン!」
声は、段々近付いてくる。
「ここよ!こっちよ!」
リヨンは、自分の居場所を知らせようと声をあげた。
友の姿を確認しようと、駆け出した。と、見知らぬ男の前であったことを思い出す。
声を荒げ駆け出した。女らしさの欠片もないと、恥ながら、再び古木を見ると、そこには誰もいなかった。
「探したわ!急にいなくなっちゃうんだもの。でも、紅い上着でわかったの」
朗らかな友の様子とは裏腹に、手持ちぶたさのような寂しさに、リヨンは襲われる。
むろん、男がどちらへ行ったかなど、友に聞けるわけもない。
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